二千十九年十月二十三日、プロ野球日本シリーズ第四戦、福岡ソフトバンクホークスが読売
ジャイアンツを下し日本一に輝いた。ソフトバンクのメンバー、や首脳陣、スタッフ、フロン
ト、全国のホークスファンは歓喜した。しかし、勝者がいれば敗者もいる。喜び、歓喜の渦に
包まれる者もいれば、悔しさに暮れる者もいる。 例えばこの少年、小学一年生の高橋隼人。
彼は大の読売ジャイアンツファンである。野球の経験は無いが、日頃からテレビで野球観戦に
明け暮れ、毎試合タオルを振り回してては、テレビの前で声を枯らしていた。だからこそ今回
の日本シリーズの敗戦がとても悔しかった。悔し涙を流した。自分のことでもないのに、よく
そんなに悔しがれるな、というほど悔しがった。 翌日昨日のことが嘘のようにけろっとして
いる隼人は夢を描いていた。自分が選手として読売ジャイアンツに入って、チームを日本一に
導いてやろうという夢である。単純な隼人はその日から早速練習に勤しむことにした。 学校
の友達と放課後近所の公園で待ち合わせをして、試合形式で野球をして遊んだ。運動神経の良
い隼人はいつでも四番ピッチャーだ。隼人の投げるボールは誰も打てないし、バッター隼人は
誰がどんな球を投げてもホームランをかっかとばす。「へっ。どんなもんだ。俺は最強だな。」
そう言って威張っていると、後ろに気配がした。振り返ると、そこには隣のクラスの石橋大
和が立っていた。近所の少年野球チームで、一年ながら活躍している石橋は運動神経も良く、
運動会のリレーでめ隼人とアンカーで争ったほどだった。「よう。隼人。」石橋はニヤリと笑
いながら隼人に挨拶した。「石橋か。なんだよ。」隼人は石橋のことが嫌いだった。はっきり
いって、石橋は隼人よりも運動神経が良かった。運動会でもギリギリで隼人を追い越すし、ハ
ンサムで女子からも人気だった。「野球勝負しないか。俺がピッチャーで、隼人がバッター。」
石橋は自信満々のようだ。のらない手ない、と隼人は思った。ここで勝負に勝って石橋のハ
ナを明かしてやろうと思ったのである。「いいぜ。」隼人の快い返事に、その場にいたみんな
は盛り上がった。 勝負は一打席。みんなが息を飲み、見つめる中、石橋はピッチャーマウン
ドに上がる。そして慣れた足つきで、マウンドをならす。お互いの準備が整うと、審判を買っ
てでた友達の一人がプレイ!と大きな声をあげる。すると石橋は大きく振りかぶり、第一球を
投じた。